5月 13日(金)能と茶の湯「二人静」その二
ご機嫌よろしゅうございます。
先週は能曲「二人静」を御紹介しました。
今日はその「二人静」にちなんだ裂地を御紹介します。
足利義政が「二人静」を舞った際
紫地に鳳凰の丸紋の金襴の衣装をまとったことから、
この文様を『二人静金襴』とよぶようになったと伝えられ、
大名物「北野肩衝茶入」や「浅茅肩衝茶入」の
仕覆に用いられています。
ちなみに、能では「ふたりしずか」と読まれますが
裂では「ににんしずか」と読むのが通例となっています。
5月 6日(金)能と茶の湯「二人静」
ご機嫌よろしゅうございます。
晩春から初夏にかけて十字状にのびる4枚の葉の
真ん中からのぞく2本の花穂に,
白く小さな花が山林で咲く姿を見かけます。
この花の名は「二人静」
静御前の亡霊が舞う能曲「二人静」から
2本の花穂を静御前とその亡霊の舞い姿に
たとえて名づけられました。
今日はこの「二人静」を御紹介します。
吉野山の勝手神社の神官が、
正月七日に菜摘女(なつめ)に若菜を摘みに行かせます。
その菜摘女に静御前の霊が憑き、
神官のもとへ戻ってきます。
そして菜摘女に取り憑いた霊は、自分が静御前であることを
告げ、ここの蔵に自分の舞装束が仕舞ってあると言い、
それを身につけます。
菜摘女が舞い始めると、静御前の霊が現れ、
影のように寄り添って舞います。
静御前は義経の吉野落ちの様子や、鎌倉にて
頼朝の前で舞を舞わされた出来事を物語り、
神官に弔いを頼んで消えていきます。
4月 29日(金)能と茶の湯~狂言編~「通円」
ご機嫌よろしゅうございます。
狂言では、話の中に茶の湯が登場するものが
いくつかあります。
今日はそのうちの一つ「通円」を御紹介します。
舞台は宇治ある旅の僧が平等院に参詣します。
無人の茶屋に茶湯が手向けてあるのでいわれを聞くと、
その昔、宇治橋供養の折、通円という人物が
大勢の客に茶を点て続けた挙句息絶えたのだとか。
今日がその命日に当たるのだと語り、
僧にも弔いを勧めます。そこで読経をする中、
通円の亡霊があらわれ自分の最期のありさまを語ります。
「都からの修行者が三百人もおしよせ、
一人残さず茶を飲まそうと奮闘するも、ついに茶碗、
柄杓も打ち割れて、もはやこれまでと平等院の
縁の下に団扇を敷き、辞世の和歌を詠んで死んでしまった。」
そう語り終え、通円は回向を頼んで消えていきます。
この通円現在でも宇治橋のたもとに通円茶屋があり、
一服されたことのある方もいらっしゃるのでは
ないかと思います。この通円茶屋の初代通圓は
主君源頼政に仕え、平家の軍と戦いました。
その後頼政が平等院にて討死、通圓もあとを追います。
狂言「通円」は、この頼政と初代通圓の主従関係を
物語った能「頼政」をなぞって大勢の敵をなぎ倒し、
末に滅んでいくていく様子を、何百人もの参詣客を
相手に茶を点て死んでいく通円を描いたものです。
4月 22日(金)能と茶の湯
「くせ舞」
ご機嫌よろしゅうございます。
今日は能にちなんだ遠州公ゆかりの
お道具を御紹介します。
遠州蔵帳記載の茶杓に「くせ舞」
という銘の茶杓があります。
節の部分に波紋のような綺麗な模様が
出ており、数ある遠州公の茶杓の中でも
秀逸の一本です。
くせ舞は扇を持って鼓を持ち、一人から二人で
舞う中世の芸能の一つでしたが、この音曲を
能に取り入れ、能の「クセ」と呼ばれる小段が
成立したとされています。
織田信長が舞ったとされる「幸若舞」も、当時の曲舞
の一つだったようです。
この「くせ舞」の節回しが面白いということから、
「節おもしろし」にかけて、「くせ舞」
と命銘されました。後に益田鈍翁が所有し、
大いに自慢しました。
4月 15日(金)能と茶の湯
「隅田川(すみだがわ)」
ご機嫌よろしゅうございます。
先週は「隅田川」のあらすじをご紹介しました。
「伊勢物語」で在原業平が抱く望郷の思いを
隅田川まで我が子をたずねきた母の思いに
重ね、悲しみの上にも詩的な世界が広がります。
劇中に桜が登場するわけではありませんが
設定の季節と物語に展開される、
あまりに悲しい運命が、
桜の花のおぼろげな雰囲気と対象をなして、
人々の心を捉えます。
この曲そのものを直接的に表したものでは
ありませんが、隅田川を題材にした茶道具に
「染付隅田川香合」があります。
安政二年(1855)に作られた「形物香合番付」
で、西四段目十四位に位置しています。
明代末期の染付で
やわらかなふくらみのある四方の形
上部には風に揺れる柳が、下部には川を進む
屋形船の姿が描かれており、
隅田川に舟を浮かべた風情を想起させます。
4月8日(金)能と茶の湯
「隅田川」
ご機嫌よろしゅうございます。
今日はこの季節によく演じられる能「隅田川」をご紹介します。
物語の舞台は春の隅田川の堤、
京で人買いにさらわれた我が子を捜し求める母の
絶望が描かれます。
息子をさらわれ、狂女となった旅の女は
隅田川にさしかかります。
舟にのるため先頭にもとめられて
『伊勢物語』の「都鳥」の古歌
名にし負はば いざ言問はむ 都鳥我がおもふ人は ありやなしやと
を引き、自分と在原業平とを巧みに引き比べ舞い
船頭ほか周囲を感心させ、舟に乗ります。その舟の中で、一年前の今日である三月十五日に対岸の川岸で亡くなった梅若丸という子どもの話を聞き、それが自分の探している我が子であるとわかります。
狂女に同情した舟頭の手助けで梅若丸の塚に案内され、弔いをすると梅若丸の亡霊が現れ触れようとしますが、その手に我が子を
抱くことはできず、消えてしまします。
母の悲しみは一層深まるのでした。
我が子の行方を尋ねてさまよう狂女ものは
他にもありますが、親子の再会をもって終わるものの中でこの曲だけは唯一悲劇的な結末で終わるものです。
梅若伝説については一昨年の3月15日のメールマガジンでご紹介しましたので、そちらもご参照ください。
4月 1日(金)能と茶の湯「忠度(ただのり)」
ご機嫌よろしゅうございます。桜にちなんだ演目としてあげられるものに「忠度」があります。
行き暮れて 木の下陰を宿とせば
花や今宵の主ならまし
世阿弥の新作能である「忠度」は平清盛の末弟であり、壇ノ浦で討ち死にした平忠度が詠んだこの歌が、
「千載集」に詠人不知(よみびとしらず)として取り上げられた心残りを、
亡霊となって旅の僧に語るというあらすじです。壇ノ浦で打ち取られた若い青年の名は分からず箙につけられた短冊から、
かの武にも文にも秀でた忠度であるとわかるのでした。平家は朝敵とされ、
「読み人しらず」として名を削られてしまうのでした。
昨年にご紹介しましたが、この忠度が薩摩守だったことから細川三斎が命銘した薩摩茶入「忠度」があります。
3月25日(金)能と茶の湯
「桜川」
ご機嫌よろしゅうございます。
先週は桜川をご紹介しました。
この桜川の名を持つ茶道具に、
西村道仁作とされる釜があります。
千少庵が愛用したといわれているもので
胴は面取し、面の角に細かい玉縁を
めぐらし、肩から胴ににかけて斜線がかけられ
籠目としています。
釜の下の方には桜の花が二輪
あしらわれています。
また、必ずしも能にちなんでというわけでは
ありませんが、「桜川」と名をもつ道具で
有名なのは大阪の藤田美術館所蔵の
古染付形物水指です。
形物とはその形と文様に一種の定形が
あるという意味です。
見込に陰陽の桜花、外に波の絵があり
水がたたえられると、桜花がうかびます、
3月 18日(金)能と茶の湯
「桜川」
ご機嫌よろしゅうございます。
春の訪れを感じ、桜の便りを心待ちに
している近頃。
今日は「桜川」をご紹介します。
九州の日向国、現在の宮崎県の桜の馬場
ここに母ひとり子ひとりの貧しい家がありました。
その子・桜子は、母の労苦に心を痛め、
東国方の人商人にわが身を売ります。
人商人が届けた手紙から桜子の身売りを知った母は、
悲しみに心を乱し、桜子の行方を尋ねる旅に出ます。
それから三年
遠く常陸国(茨城県)の桜川は春の盛りを迎えています。
桜子は磯辺寺に弟子入りしており、
師僧と共に花の名所の桜川に花見にでかけます。
折しも母は長旅の末、この桜川にたどり着いた
ところでした。母は狂女となって
川面に散る桜の花びらを網で掬い、狂う有様を
見せていました。
師僧がわけを聞くと、母は別れた子・桜子に
縁のある花を粗末に出来ないと語ります。
そして九州からはるばるこの東国まで、
我が子を探してやって来たことを語り、
落花に誘われるように桜子への想いを募らせ、
狂乱の極みとなります。
僧は母子を引き合わせ、母はその子が
桜子であるとわかり、正気に戻って嬉し涙を流し、
親子は連れ立って帰ります。
母子の深い情愛を謡いつつ、
また舞台や名前、季節、心理描写などを
「桜」を主軸に据えながら美しく切ない叙情を
表現されている点も見所です。
この名前を持った茶道具に古染付 桜川 水指等があります。
3月 11日(金) 能と茶の湯
「竹生島」
ご機嫌よろしゅうございます。
先週は「竹生島」をご紹介しました。
今日はその「竹生島」にちなんだ釜をご紹介します。
醍醐帝の朝臣が島へ向かう舟から
眺めた湖畔の景色を、建長寺自休蔵主が
竹生島に参詣した際の句が引用しています。
緑樹影沈んで 魚木に上る気色あり
月海上に浮かんでは 兎も波を走るか
おもしろの島の気色や…
訳)島に生える木々の緑が湖面に映り、
魚たちが木を登っているように見える。
月も湖面にその姿をうつすと、
月の兎も波間に映る月明かりを
奔けて行くようだ
なんとも不思議な島の景色よ。
芦屋真形竹生島釜には、波頭に兎の図面と
反対に洲浜に生える松樹が描かれています。
この兎に波の図は着物の模様でもよく
用いられます。