東海道旅日記 下りの記【10】 10月09日『江月和尚の偈文』

2021-5-7 UP

まだ日も昇らぬうちから宿を発ち、鈴鹿山で休憩する遠州公一行。この日の日記では、出発の際にいただいた江月和尚の手紙を読み、その心遣いに涙を流す遠州公の様子が記されています。長い旅路へ向かう遠州公を気遣った江月和尚が送った偈文

莫忘風流旧同友 花時洛下約遭逢
(わするなかれふうりゅうきゅうどうゆう
 はなのときらっかにそうほうをやくす)
には、風流の心を一日としてわすれることなく、今日まで生きながらえてきた私たちであるから、また必ず桜の花が咲くような風流の時には、また京都で逢うことができるでしょう。お互いに元気でその時を楽しみにしています。という意味が込められています。

この時江月和尚69歳、遠州公64歳。当時60歳を超えることは大変な長寿であったので生涯の友ともいえる二人の交友の深さがこの偈文からも偲ばれます。遠州公も鈴鹿の神前で、また来年の桜の咲く頃、お目にかかりたいと願います。玉の緒(命)の少しでも長からんことを
祈るばかりです。と歌を贈ります。残念ながら、遠州公が江戸に出府している翌年の11月1日に70歳で入寂される江月和尚。再び会うことは叶いませんでした。