東海道旅日記 下りの記【04】 10月8日

2021-1-22 UP

山の方へ眼をやると、そこだけが時雨が降っており、見過ごしがたい眺めだ。

出てゆく けふの別を おしといふ 
けしきながらの 山の時雨は

と、独り言ちする。伴う人はいても、歌を詠む者ではないので、この山の景にさへ不満そうな顔でいるのも言葉こそださないが嘆かわしい心地でいると、舟は矢橋の浦に到着した。見送りに来てくれた人たちに、別れを告げて舟から上がり、此の里を出る。東の方角に向かえば鏡の山、おいその森も近い。この山も時雨れて曇っている。

心ありて くもる鏡の山ならん 
老そのもりの かげやうつると

と、また独り言ちして進む。戌の刻(20時前後)水口の里に着く。ここにまで都より人が訪ねてきてくれていろいろと話をしている程に、その夜も更けていった。