東海道旅日記「下りの記」10月15日『富士の山』

2022-2-18 UP

富士の山にむかう途中、江月和尚からいただいた
一偈の一、二句目が脳裏に浮かぶ。

  東行斯日巳初冬
  為雪吟鞭指士峯


とあり、つくづくと山を見てみれば、真白い雲が群れて雪の色を奪おうとも、また遮ろうとても、その雪の白さにはかなわない。すそ野をめぐる高嶺の煙は、風にまかせてたなびいている。何か言おうと思うけれど、言葉は雪のように消えてしまい、ただただ茫然と佇むばかり。

つげやらん ことの葉もなし 
年経ても まだみぬふじの 雪のあけぼの

と詠めば、傍らの人

 ふじいづこ 雪にゆづりて やまもなし

と続ける
この山に心をよせて時がたち、吉原の里に留まり一泊。