織部焼茶入 銘「不二」
2017-5-19 UP
織部焼の茶入に「不二」の銘をもつものがあります。
遠州公が
時しらぬ五月のころの色をみよ
いまもむかしも山はふしのね
との歌銘をつけています。これは「伊勢物語」所載の
時しらぬ山は富士の嶺いつとてか
かのこまだらに雪の降るらむ
をうけての歌と考えられます。詞書には、さ月の晦に、ふじの山の雪しろくふれるを見て
よみ侍りけるとあり、五月になっても鹿の子斑に雪が降り積もる富士山を歌っています。
五月といっても陰暦の五月なので、現在の七月初め頃。夏のまばゆい青空に東路を進み、駿河の国に着いた男が見た富士の山は頂に雪をかぶり鮮明な印象です。後窯に分類される織部「不二」は背の高いすっきりとした形で肩から胴体にかけて富士山の姿があらわれています。黒釉が一面にかかり、それが柿色に変化して影富士のような模様となっています。
