東海道旅日記「下りの記」10月15日『富士の山』

2022-2-18 UP

富士の山にむかう途中、江月和尚からいただいた
一偈の一、二句目が脳裏に浮かぶ。

  東行斯日巳初冬
  為雪吟鞭指士峯


とあり、つくづくと山を見てみれば、真白い雲が群れて雪の色を奪おうとも、また遮ろうとても、その雪の白さにはかなわない。すそ野をめぐる高嶺の煙は、風にまかせてたなびいている。何か言おうと思うけれど、言葉は雪のように消えてしまい、ただただ茫然と佇むばかり。

つげやらん ことの葉もなし 
年経ても まだみぬふじの 雪のあけぼの

と詠めば、傍らの人

 ふじいづこ 雪にゆづりて やまもなし

と続ける
この山に心をよせて時がたち、吉原の里に留まり一泊。

遠州公の愛した茶入

2014-11-8 UP

11月 8日 遠州公の愛した茶入
「伊予簾(いよすだれ)」

ご機嫌よろしゅうございます。
今日は遠州蔵帳帳所載の茶入「伊予簾」
をご紹介します。

この茶入の形が編笠に似て、もの侘びた姿を
していること、また鶉のような斑模様をしている
ことからから遠州公が詞花和歌集 恋下の

逢ふことはまばらに編める伊予簾
いよいよ我をわびさするかな              恵慶法師

の歌の意味をもって銘命されたと言われています。

遠州公の茶会記では、
寛永十四年(1637)十二月二日夜に、江月和尚
松花堂昭乗を招いてこの茶入を用いています。

この茶入に添っている仕服の一つは「伊予簾」と
呼ばれています。
このように、茶入の銘から仕服の呼称がつけられたものを
名物裂と言います。

小堀家の手を離れ、所有者を転々とした後、
現在では昭和美術館の収蔵品となっています。