手取りまして拝見

2023-4-1 UP

 春爛漫の言葉がふさわしい頃となった。桜を代表とする春の花の咲き乱れる、身も心も晴れやかになる季節である。「鮮やか」を意味する爛と、「一面に広がる」の漫の二文字が組み合わさった爛漫は、まさしく花が咲き、光が満ちあふれる景色が目に浮かんでくる。今年は数年来の自粛から解放され、それこそ全国各地で花見が盛んに行われるであろう。
 こういった世の中の流れのなかで、茶の湯の世界でも茶会が、以前のように活発に催されてきている。大変結構で、嬉しい傾向である。一方で、未だ完全収束とはいえないし、果たしてその日はいつ来るのか誰も知らないというのも事実である。だから私達は、この三年間で学んだものを決して忘れないようにしなければいけない。なんとなくいいだろうというのは、今までの苦労が水泡と帰すことになる。茶会においては、今まで以上に、整理、整頓、清潔、消毒など心がけて臨んでいきたいと考えている。
 茶会が活況を呈してきたこの三ヶ月間、改めていろいろと感じることがあった。一番は、茶道具の拝見についてである。茶会において大切なものは、茶会の主旨やテーマ、菓子や抹茶あるいは点心といった直接にお客様の飲食につながるもの、席の時間や入退室など、数限りない。そのなかでもお客様の関心が一番高いものは、やはり取合せ、つまりその日使用される茶道具についてである。したがって、迎える亭主側も、このことには一番の腐心をするといっても過言ではない。であるから、お茶をいただいた後の拝見がある意味、その茶会の茶席(濃茶でも薄茶でも)のハイライトでもある。ここで注意すべきものは、実は亭主の説明でも道具でもなく、お客様の拝見の仕方である。拝見される様子で、客としての姿勢、茶人としての力量がわかってしまうともいえるのである。
 まず大切なのは、亭主の説明、つまり話をよく聞くということ。そこで、亭主の思いや考えを理解したうえで、初めて道具と向き合うと面白味が増す。美術館で美術品を鑑賞するのとは、この点が大きな違いである。そして次に全体をよく見る。品物だけでなく、どういう形でその物が飾られているか、付属しているものはなにかなど、拝見する道具を中心に、周辺を見るのである。そこまで見てから、初めて手に取って道具を拝見する。このとき遠州流では、道具拝見の所望をする際に、「手取りまして拝見」という挨拶を必ずする。つまり拝見をお願いするときに、いま述べた三段階を踏まえたうえで、「実際に手に取らせていただきます。重さや肌合いを手に感じさせてください」という客としての謙虚な姿勢を述べるのである。最近ではすぐスマホで写真に撮ったり、さらにはまだ茶会が行われている途中でインスタグラムにアップされることもある。このあたり、もっと物事の本質を見るという心構えを茶道の世界では伝えていきたいと思っている。