久しぶりのシンガポール

2023-10-1 UP

 夏がようやく過ぎ去ろうとしている。日本語には、移ろいや名残りといった情緒のある表現があるが、最近は、心が穏やかになる言葉を目にしたり耳にする機会が、ずいぶんと少なくなってきている気がする。一方、テレビや新聞、そしてネットの世界では、人や出来事を激しく糾弾する言葉や表現が、ごく普通のものとして使われるようになった。この流れのなかで、人間の心がだいぶ、荒れていると感じるのは私だけであろうか。今の時代は、人々の言動に対しては特に厳しい視線が向けられる割に、これは? と眉をひそめる酷い書き方や言いまわしが、ネット上を闊歩〔かっぽ〕しているのには矛盾を覚える。

 さて去る8月下旬に、シンガポールを訪れた。毎年恒例の行事であったが、コロナパンデミックにより令和2年から中止していた。その間、シンガポール国立大学(NUS)の遠州流茶道部員とは、オンラインによる研究会や点法の稽古を行ってコミュニケーションをとっていた。4年というブランクがあるので、従って以前の大学生は卒業し、顔ぶれもほぼ新しいといってよい。

 23日、羽田空港の国際線のターミナルも久しぶり。私自身、海外への渡航は4年ぶりということになる。出国手続きは、ほぼ電子化・自動化されていた。ちょうど、この4年の間に私のパスポートは期限が切れ、真新しいもの、つまり初使用となるが、相手は機械。渡航記録も印字されず、いささかさびしい感じであった。

 夕刻チャンギ国際空港に到着すると、ターミナルが改装されていて、少々とまどいながら入国審査へ。ここでも事前に(出発前)に出入国に関する書類を電子版で提出しているので、ほとんど何もなく入管をクリア。以前、いろいろな国を訪れたときのドキドキ感は、もうなくなってしまったことに気づかされる。

 24日はNUSの茶室において点法指導を一日中行った。両名物、茶碗披きなど、高度な点法は上級生やOB、OGが行い、私と初めて顔を合わせた学生は、基本の薄茶や重ね茶碗などを行った。毎度のことながら、ていねいな稽古ぶりには感心する。

 翌25日は、日本大使公邸での茶会。石川浩司特命全権大使ご夫妻と、ご招待のお客さまへ、私の点法で呈茶、拝見のあとにゲストとの質疑応答の時間が設けられた。実は海外ではこの時間が結構長い。この日もお点法終了後、30分程度時間を要した。いろいろな質問のなか、一番はおもてなしとは如何?というもの。こういうシンプルで、そして難しい質問が海外ではよくある。その都度、答える私も勉強になると思っている。今回は私の母校、学習院の卒業同窓会であるシンガポール桜友会の方々にもお目にかかった。

 三泊五日の短い渡星であったが、一番に感じたのは、人と人が直接に空間を共にする交流が大切であるということ。国の内外を問わず、大切にしたいものである。