花嫁の父

2025-7-1 UP

 毎年五月には京都大徳寺の孤篷庵で遠州忌茶会を催している。この茶会は、私の知る限り、ロケーションとシチュエーションにおいて日本で一番といっても過言ではない。席主心入りの流祖ゆかりの取合せが、忘筌と山雲床という、これまた最高の空間の点前座に置き合わせられる。加えて五月の直入軒と本堂前庭の新緑が美しい。以前からいわれていることでもあるが、前日に雨が降った翌日は、もう本当にたまらない景観である。今年はその意味でも最高であった。身も心も清まるとはこのことで、綺麗さびはこれに極まれりと真に思えるすばらしい茶会である。参会のお客さまにはもちろんご好評であるが、もっと多くの方にこの季節の孤篷庵を知ってほしいと思う。

 さてプライベートの話になり恐縮であるが、さる4月20日に娘宗翔が結婚した。当日の明治神宮は、前晩の雨が早朝にやみ、晴天に恵まれた。久しぶりに訪れた神宮は、大勢の観光客(参拝者というより)であったが、その九割が海外からの人々であったのにも驚かされた。式場神前まで新郎新婦および両家親族一同が連れ歩く途中、それこそどれだけのスマホのカメラが私達を捉えていたのか、これには恥ずかしい反面、なにか嬉しくもあった。

 さて来る6月24日は披露宴を迎える。この7月号がみなさまに届く一日前ということになる。私はいわゆる「花嫁の父」といわれる立場である。読者のどのくらいの方がご存じかわからないが、私が生まれる前(1950年)にアメリカで制作されたこのタイトルの有名な映画がある。監督はヴィンセント・ミネリ、主演の父親役は名優スペンサー・トレーシーで、花嫁役はハリウッド一の美貌といわれた名優エリザベス・テイラーが演じている。テイラーは当時一八歳で本当に美しい。なぜこの映画を観たのか定かではないが、おそらく習慣的に毎週観ていた「日曜洋画劇場」での放映と考えられる。当時私は高校生だったと思う。なんとなく解説の淀川長治の「上手いですね、上手いですねぇ、トレーシー! 綺麗ですね、綺麗ですねぇ、テイラー!」と必ず繰り返される独特の口調がいまでも私の耳に聞こえてくる気がする。それ以来もう一回くらい観たかもしれないが確かではない。が、若かった私に花嫁の父というワードが刻まれたのは間違いない。映画の内容を詳しく述べる余裕はないが、突然愛娘から結婚の意思を伝えられてオロオロと戸惑う父親の姿、披露宴までの紆余曲折のドタバタ、そして挙式当日の親としての心境などがおもしろく描かれているコメディである。

 そしていよいよ私の番である。ご承知のように実は二年前、長女朗子のときに一度経験はある。そのときは娘のあまりにも幸せな様子にただひたすらハッピーな気持ちになった。今回は如何に?みなさまの期待通りになるか否か、いまからその日の来るのを静かに楽しみに待っている。