空中茶室「閑雲軒」
京都の八幡市にあります石清水八幡宮の境内には、遠州と大変仲の良かった松花堂昭乗が宿坊を務めた滝本坊があります。松花堂は石清水八幡の僧侶で、17歳の時から修行を始め、政界のフィクサーとして活躍しました。出生については、霧に覆われたように謎めいており、兄の中沼左京と共に、二人の親族について年月日以外まったく分かっておりません。そのことについて二人はどんなに親しくした人物にも終生語ることはなく、意識して隠し続けたのだと思われます。
ただ、彼が(もちろん中沼左京も)暗い人物であったかというとそうではなく、大変人に愛される人柄で、亡くなった時には多くの人々が悲しみを表しました。遠州も、旅日記や歌の中で、「松花堂がまだ生きていてくれたら、こんなに寂しい想いはしなかったのに」という、悲しみや寂しさ、悔しさなどを込めて詠んでいます。そんな松花堂と遠州が共に作った茶室、それが滝本坊にある「閑雲軒」という空中茶室です。崖から迫り出す設計で造られたその茶室は、7mもの柱で支えられ、中に入って窓から景色を見れば、まさに空中に浮かんだように感じられたでしょう。
現在ではその姿を見ることは叶いませんが、屋敷跡が残されており、当時を知るうえで、貴重な資料として保存されています。