浅草寺 伝法院
浅草寺の本坊にあたる伝法院の庭園は、江戸時代初期に大名であり茶人としても知られる小堀遠州によって作庭されたと伝わる名園です。寛永年間(1624〜1644)に築かれたこの庭は、遠州が作庭奉行として活躍していた時期の代表的な作品のひとつです。
■ 遠州作庭の構想と美学
庭園は池泉回遊式でありながら、寺院の本坊にふさわしく「座して観る」静かな景を大切にしています。大書院から池を見下ろす構成は、遠州が重んじた“建物と庭の調和”を象徴するもので、茶の湯の心を背景にした静謐な空間を生み出しています。池は北と西の二つの池泉が細い流れでつながれ、歩くたびに景色が移り変わるように設計されています。これは、遠州が得意とした“動”と“静”の対比を巧みに取り入れた構成です。
■ 枯瀧に見る遠州の技巧
庭園の中心となるのは、築山の上に据えられた立石で表現された雄大な**枯瀧(かれたき)**です。実際に水を流さずとも、あたかも水が音を立てて流れているかのような臨場感を生むこの石組みは、遠州の卓越した造形感覚を示しています。枯瀧から続く渓流が二つの池を結び、全体に生命の流れを感じさせています。
■ 江戸の風雅と祈りの空間
当時の浅草寺は徳川家の祈願所として厚く保護されており、この庭園もまた将軍家を迎えるための格式ある空間でした。遠州はその目的にふさわしく、荘厳さと静けさを兼ね備えた景を作り上げています。庭園に点在する石灯籠や石塔は、遠州流の作庭に見られる「数寄の飾り」であり、宗教的荘厳と茶の湯の美を見事に融合させています。
■ 現代に伝わる遠州の遺風
平成23年(2011)には、この伝法院庭園が国の名勝に指定され、その文化的価値が正式に認められました。さらに平成27年(2015)には、大書院や玄関、小書院など六棟の建造物が重要文化財に指定されています。通常は非公開ですが、特別公開の折には、遠州の美意識を直接感じることができます。
