梅雨になると

2019-9-1 UP

 今年は、例年に比較して、梅雨の期間が長かった。やはりこの季節は、外気の湿りがちな状態に影響されて、私達の気分もなんとなくテンションが下がるようにも思われる。しかし農作物等にとっては、とても大切な意味合いも一方では持っている。


 茶の湯に関係するものの一つに、香道があるが、実はこの香を楽しむ、いわゆる聞香は、この時季がふさわしいと昔からいわれている。あまり空気が乾燥したときより、しっとりしている方が、香りが良く感じられるからである。そういうことも踏まえたうえで、六月の中旬に、宗家直門において、聞香の体験勉強「茶香会」が行なわれた。


 ご承知のとおり、流祖遠州公は香の道にも造詣が深く、茶の湯の点法としても、炭点法のなかに香炭というものが伝わっている。また、花扇式においても、香の扱いがあり、遠州流茶道の豊かさを象徴する部分の一つともいえると思う。綺麗さびといわれる茶の要素の一つに、ほかには見られない王朝文化の雰囲気というものがあげられる。茶の湯の美学として代表的なわび茶の成立以前の茶道草創期は書院の茶であった。王朝の雅、平安の文化は、それよりさらに一つ前にあった日本を代表するものであり、これを、遠州公は茶の道に綺麗という感性として取り入れたのである。その代表は和歌であり、香道であった。


 遠州所持あるいは命銘の香としては、「初音」「浅緑」「飛鳥川」等があり、いずれも名香として宗家に伝わっている。ごくまれに、この香木を聞くことをするが、それは得も言われぬ、つまりなんとも形容しがたい心持ちになるのである。


 さて話を茶香会に戻そう。京都の山田松香木店のご主人自ら出香の役を引き受けていただき、直門三十名程ほどで二席にわかれて聞香が行なわれた。その結果は、ここでは発表することは控えるが、当否はともかく、会員の方々はたいへん楽しまれたようであった。


 私もかつて先代から、香について学ばせていただいたことがあった。なによりも、自分にとって良かったということは、香の香りを聞き分けるのはもちろんのことであるが、それよりも、集中力、洞察力、、注意力を養うことに大いに役立ったことだ。これは、茶の湯の指導をするうえにも大きな影響があったと思っている。


 梅雨のころになると、いつも亡父から教わった、香についての話をいろいろと思い出す。心を浄化し、湿りがちな気分を一掃させる役があるのだということを知ったことは、懐かしい思い出である。