ホトトギス

2020-6-1 UP

「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」


 昔から、初夏を迎えたこの頃を端的に表現している句である。あまりにも有名なこの句に対して、作者が、江戸時代前期の俳人 山口素堂であることは、意外にも知られていない。同時代に生まれて交流もあった松尾芭蕉とは、ずいぶんと世間における知名度も違っている。しかしながらこの句は、いかにも江戸っ子の季節の先取り、粋な気質をとらえたようで、これにより初鰹人気が高まったといわれている。


 流祖 遠州公は、遺訓のなかで「夏は青葉がくれの郭公〔ほととぎす〕」と、やはり夏の季節の代表としてホトトギスを挙げている。ホトトギスは、郭公、杜鵑、時鳥、杜宇、蜀魂、田鵑、子規など多くの漢字表記をもつ鳥で「万葉集」「古今和歌集」「新古今和歌集」を始めとする歌集にたいへん多くの和歌が詠まれている。


 したがって、茶の湯の世界においては、風炉の時季になると、掛物では和漢朗詠を始め、古筆歌切、懐紙、詠草、色紙、絵賛などに多く登場する。茶入や茶碗の銘にもよく用いられている。茶杓などの歌銘においては、やはり風炉の頃には卯の花や橘などとともにホトトギスは登場するのである。香道で使用される香木のなかにも、伽羅〔きゃら〕の名香の一つとして郭公の銘をもつものもあり、組香としても郭公香というものが存在している。茶道のなかでは多くの漢字表記のなかで、前述の上位三つ、つまり郭公、杜鵑、時鳥が使われることが多く、茶会などでホトトギスという言葉が使われると、「夏ですね」「お時候ですね」といった会話がよく聞かれるものである。


 ところが、この名前の有名であることに比べて、実際のホトトギスの姿を見て「あれはホトトギスですね」とすぐにいい当てるひとは意外にも少ない。鳴き声も、古来より「テッペンカケタカ」とか「特許許可局」と聞こえるといわれているが、鳴き声を聞いてすぐにそれとわかる人も多くない。


 このようにしてみると、私達は常日頃、ごくあたり前のごとく思っていることでも、それに関して全ての情報を持っているかといえば、そうではないのである。知らないからこそ、調べる、学ぶということにつながってくるのである。インターネットの現代、調べるという作業はかなり容易になってきている。私や、それ以前の人たちが疑問点があると、多くの書物や人の話を尋ね、自分の持論を得たものである。ときとして長い時間を要することもある。それが調べるという意味であったが、現代は、それは検索という表現に変ってきてしまっている。遠州公は「我知らぬ事を人に尋ね候はば、知らぬと答えたる事は、知りたると申し上げるより能〔よ〕く候」といっている。この数カ月、外出自粛要請により自宅にいる時間が多いなか、いまこそ、調べて学ぶことに取り組みたいと考えている。


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