Japaneseenglishfrench

茶の湯日記

 伝える力


  去る七月に東京・新宿で「オゾン夏の大茶会」が開催され、遠州流茶道も全面的に協 力し、一週間で十三万人以上の参加者があり大盛況であった。私自身の好み道具や、新 しい見立て道具の展観も概ね好評であったようで一安心であった。

 これだけ大人数となると、必ずしも茶道の経験者ということにはならず、夏休みとい うことも手助って、子供連れの人たちも多い。つまり、茶道には素人の方たちに、茶の 湯の素晴らしさを知っていただき、日本文化を伝えていく絶好の機会到来ともいえるの であった。

 私のモットーは、「わかりやすく、楽しく」であり、「茶の湯を通して心を豊かにす る」という事である。従って今回は、非常に良い時と場所を得たともいえる。

 近著である「茶の湯の不思議」の文中や講演会などでも、たびたび申し上げている事 であるが、わかりやすく楽しく親しんでもらう、というのは、実は、何でも簡単にすれ ばよい、という事ではない。

 その時、その場、そこにいる人たちの空気を感じて、自在に、そして柔軟に、しかし ながら基本にある精神性をきちっと保たねばならない。従って、伝えていく立場の私た ちの姿勢が大事なのである。かたくなに守るのでも、いたずらに崩すのでもなく、そこ のバランスが実は難しいのである。相手が子供やお年寄りの方、あるいは男性、女性、 いかなる状況であっても、自分の持っているものの中から、ベストなものを提供してい く。出し惜しみはしない。その事が一番であると思う。

 会期中にいくつかのトークショーやパネルディスカッションがあり、私もその中に入 れていただいたが、私は、いつもそうありたいと思って参加していた。しかしながら、 常に相手があって自分があるので、その時々によってうまくいく場合とそうでない場合 があった。なぜこんな話をしているかと言えば、実は茶会で主客のやりとりというもの も、この話と相通じているからである。

 よく私は、茶事や茶会では、亭主になる人が、テーマを決めたり、思いがなくてはな らない、と申し上げている。しかし、それが必ずしも客人にストレートに伝わらない事 もある。その時自分の思いを依然としてひたすらに押し進めようとすると失敗する事が ある。伝わらないという事は、伝えようとする人の力が未熟であるのも一つの理由であ るが、もう一つ、受ける人がそれに興味がない、という要因も大きい。されば、その人 の一番すきなものは何か、を話をしながらひたすら探っていく。

 人は何かしら得意としているものがある。その中から、茶道につながる事は必ず見つ けられると思う。そのくらい茶道の奥は深いのである、見つけられなければ、己の未熟 を反省しなければならない。

 押さば引け、引かば押せ。これは昔から武道の極意である。人の道、茶の道も全て同 じである。


[小堀宗実]    [HOME]

COPYRIGHT (C) ENSHUSADO-SOKE