Japaneseenglishfrench

茶の湯日記

忘れ物に注意


 花開天下春、桜咲く花見の頃である。毎年ながら、桜の開花に世の中の人の心は乱さ れる。

 在原業平の詠歌に

  世の中に たへて桜の なかりせば  春の心は のどけからまし

とあるのは、誠に意を得ていると思う。

 さて、読者の皆様は忘れ物をした事があるだろうか。春になるとぼんやりとする人が 多いので忘れ物、落とし物が増加するらしい。忘れ物で代表的なものは、昔から傘だそ うだ。朝雨が降って午後にやんだりした時は、特に増えるそうである。最近では一番多 いのが携帯電話である。どこでもかしこでも電話を手に持つ人が見られる時世、当然の 結果ともいえよう。ユニークなものとしては入れ歯もけっこう多いらしい。高齢化社会 の産物ともいえるのではないか。

 旅に出たり外出の多い私は、次のようにして注意している。手持ちの荷物などが多い 時は、飛行機や新幹線の収納場所を必ず一ヶ所に限定しておく。タクシーを降りる時は 、外に出た時に必ず車内をチェックする。列車内で本など読んだ後は、その時にバッグ の中に戻す。毎度でめんどうであるが、うっかり眠ってしまって駅で急いで降車する時 にはかなり効果がある。使った物は、すぐに片づける、茶の湯の稽古と同じである。

 こうして注意深くしている私は忘れ物など決してしない、と言い切りたい所だが、最 近二日続いてうっかりしてしまった。

 去る二月五日の事。翌日、京都孤篷庵で流祖遠州公の祥月命日を控えた前日、出稽古 のため一日早く名古屋に入った。翌日が京都なので乗車券だけは京都行きになっていた 。いわゆる途中下車である。今は自動改札なので当然乗車券だけは自然に出てくる。し かしその日は全く私の頭にその事は無く取り忘れてしまった。その夜、明朝の切符を確 認しようとした時、気がついたのであった。六日駅に行き、昨日と同じ改札口に行くと 、頂度年配の駅員の方が三人いたので、これはと思い事情を話すと、きのうの列車と席 番号を聞かれ、私が答えると、ただちに私の乗車券が出てきた。何でも話してみるもの である。何か得をした気分で京都に向かった。

 さてその帰り。京都で合流した家内と墓参を終え、帰りの時間まで知り合いの香木店 や老舗の文房具店などで買い物をし東京に帰った。買い物の一部は先日出張のために持 参しているバッグの中へ。あとは紙袋である。帰宅して、バッグの中の物を出し、あと の紙袋について家内に尋ねる。するとバッグに入れたでしょう、との返事。もう一度バ ッグを見ても無し。当然である。私は入れていないのだから。それでは迎えの車の中に 入れたままという事になり、もう今夜はめんどうなので翌日車のトランクを見ればよい となり、その日は床についた。ところが次の日やっぱり見つからず、網棚に忘れた可能 性が高いという推測になった。

 どちらの責任かなどとここで書くつもりはない。しかし、家内とこの事でしばらく押 問答があった事を皆さん想像して下さい。

 そんな事をしている内に数日経過。私は次の出張へ。帰って自分の部屋に入ると何と その忘れ物が書斎の机の上で私を迎えてくれている。家内に聞くとJR東海に照会した 結果、三日経過すると落とし物などは警察に保管されるらしく、その指示に従って取り に行ったそうである。

 しかし、二日続けて忘れ物とは私としては情けない気分である。でも見つかった事は 幸運であり、そこに関わった人達の事を思うと心に温かいものを感じた。皆様も忘れ物 にはくれぐれもご注意の程を。


[小堀宗実]    [HOME]

COPYRIGHT (C) ENSHUSADO-SOKE