にぎわい草4月

にぎわい草

ふのり

紅心 小堀 宗慶 

 日本の女性の普断着がまだ、和服が大方をしめていた時代では、?洗張?も主婦の大
事な仕事の一つであった。現在のように和服を着る機会が少ない、人達が増えている
のとは違い、もちろんのこと、洗張を専門とする職業はあっても、一般庶民の家庭で
は、特別なものは除いてほとんどの着物の洗張は、主婦がしていた。着物などが汚れ
ると、丁寧にほどいて洗濯をして、張ってしわを伸ばすのが?洗張?で、普通の家では
場所のとらない板張であって、したがって、たいていの家には張板が幾つかあったも
のである。

 洗った布を張板に貼るのに用いるのが「布海苔」で、平安時代の漢和辞典『倭名類
聚抄』には漢名「海蘿」を載せて「和名 不乃利」として「用一布苔ヲ二」として、
当時は主に食用としていたようである。今では一部の地域で食べられていると聞くが、
全国的に「ふのり」は、専らその煮汁を「糊」として用いられている。
 「糊」は、米などの澱粉質から作られ、粘り気がいわゆる接着剤としての役目を果
たすことが主要のようだが、布地の形を整えて、強張らせて貼り付ける働きも、重要
な糊の仕事である。「ふのり」は、絹織物などの?仕上げのり?として勝れているとい
う。

 布に「ふのり」をつけて張るやり方に二つあって、?伸子張?は場所も広くとり、糊
の?刷毛引き?も技術を要し、素人には不向きである。一般の家庭では、前の晩に「ふ
のり」をむしって水に浸し、一夜おいて膨らんだものを、火にかけてよく溶かし、袋
でこしてつくった?ふのり液?に、洗った布を浸してつけて、張板に張って天日に干し
て乾かす、この方法が広く普及していた。洗張は、春に暖たかくなってからの、仕事
であった。

 「ふのり」は一見「畳鰯」のようにみえる。色は黄色味をおび、「浅草海苔」のよ
うな形につくられているが、もともとは海藻でも紅藻の類で、色は赤紫色をしている
という。波打ちぎわの岩などについて群生し、管状の円柱形をした枝を出す。これを
早春から初夏にかけて採取し、薬品や発酵させてかびをはえさせたりして、軟らかく
してから、充分に水洗いして塩分を取り除き、それを漉いて、簀子や筵の上に薄く広
げて乾かせば、「板状ふのり」ができあがる。そしてそれを更に漂白して仕上げたも
のが、商品とされている。

 「ふのり」は、昔は食用が主であったようで、江戸時代に生で食べられていた記述
があり、今日のように加工されてからも、酢に浸して食していたという。それらから
すると「布海苔」の字があい、今のように糊として用いるのが主であれば「布糊」と
書くほうが、ふさわしい気がする。糊としての用い方にしても昔は、女性が髪を洗う
のにも使われていた。髪の毛のためには良かったようであった。海藻の養分を生かし
た、自然の恵みのなせることで、もう一度、見なおしてみることも、必要ではなかろ
うか。