不傳庵 茶の湯日記
敬意
遠州茶道宗家十三世家元 小堀 宗実
四月に入ると例年のことながら、入社式、入学式等が行なわれ、清新な気分が全国
に溢れる季節である。新しい門出を飾る人達には、各々の場所で大いなる飛躍を期待
したい。
さて、今回は少し茶道とは話題を離れるが、先日のバンクーバー五輪について書い
てみることとする。とはいっても競技の事ではなく、「服装問題」で批判の集中砲火
を浴びてしまったスノーボードの国母選手の一連の騒動とそれに関してである。結論
から私の意見を述べさせてもらえば、彼の服装及びその後の言動について認める訳に
はいかないと考えている。
彼を擁護する意見もたくさんある。記者会見の内容はまずかったが、服装は良いの
ではないかというのがその大半である。スーツを義務付されている会社員ではないと
か、彼なりの着こなしである、とかという服装そのものに対しての是の意見に加えて
もう一つ、国の代表としてふさわしくないとは一体何がどうふさわしくないのか、誰
に対して失礼なのか、具体的に指摘もないので、そういった批判は一方的な価値観か
ら来るものである、といった意見である。
この問題は、起きてその晩に多くのテレビでも取り上げられている。私の印象に残っ
たのは、かつてオリンピックのシンクロナイズドスイミングでメダリストであった小
谷実可子さんが「胸に日の丸を付けている意味と、他の選手の気持ちを理解して欲し
い」と言っていた事。スピードスケートの岡崎選手も、「五輪以外の場所で彼は競技
すれば」というコメントであった。これは何を意味しているのか、私なりに考えれば、
選手の誇りや自負を感じさせる言葉なのである。
私は、以前から講演の中で、節度やけじめの話をする際、畳のへりの事を話してい
る。今は畳の無い家庭が多くなっているが、昔は「畳のへりを踏むな」という事がよ
く言われたエピソードを披露している。そこには何故かといった議論など存在しない
し、入る余地もない。むしろ必要としていないと言っても良い。そういった教示が、
節度やけじめ、さらには、見えざるものへの敬意、人に対する思いやりに通じてくる
のである、と言うのが私の意見だ。
彼が帰国して語ったのは「自分のスタイルを貫ぬけて良かった」であるが、それは、
公という場では通らない理屈である。最近大相撲の横綱が引退をした一件についても、
やめさせられた事に違和感があると言っていた人が少なくないが、これもまた、その
人の個性を尊重することと、自分一人が良ければ良い、強ければ良い、結果が出れば
良い、という成果主義であり、なげかわしいと言わざるを得ない。
引退発表していても未だ完全に辞めた訳ではない横綱が、まげをくずしてポニーテー
ルで遊んでいて良いはずが無いと思う。結局自分のスタイルを貫ぬくと言いながら、
自分自身のポジションに敬意を払えないのが彼らのふる舞いという事なのではないだ
ろうか。

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