茶の湯日記2月

不傳庵 茶の湯日記 

卯槌

遠州茶道宗家十三世家元 小堀 宗実 

 辛卯(かのとう)の正月をいかが過ごされたであろうか。

 宗家では例年どおり、除夜の釜を終えると、直ちに炉中を埋火(うずみび)にして、年を越す。元旦未明に炉中を清め、炭点法をして元旦大福茶に備える。そういう過程を通しながら、新しい一年を迎える喜びと、この一年に対しての覚悟が高まってくるものである。若い時は、同じ事の繰り返しを何故それ程喜ぶのか、よく理解できないことが多かった。

 しかし最近になって、この例年通りに、全ての物事を行なっていくという事の大変さ、そして有難さがわかってきたような気がする。同じ事をしているようであっても、
決して同じではないのである。それは、時の世の変化でもあり、自分自身の精神的状況、そして何よりも、肉体的な部分も大いに関係している。従って、例年同じような事を刻一刻変化する時の移りかわりの中で、同じように感じたり、見えたりするためには、去年より今年、昨日より今日といった具合に、自分をより高みに持っていこうとする努力が必要であるという事になってくる。最近ようやく、そういったことに気づくようになり、毎年の繰り返しの重要さが本当にうれしいと思えるようになった次
第である。

 さて毎年恒例のものの一つに宗家点初めの寄付に飾られる卯槌がある。昔の宮中行事に由来するもので、若宮町に宗家研修道場を移してからは、毎年の飾り付けの一つとして、参会する方々の好評を得ているものである。特に本年は卯歳でもあり、より縁を感じさせている。

 卯槌はもともと、正月初の卯の日に邪鬼を払う意味で地面をたたくためにつくられた杖である卯杖(うづえ)の変形したものである。この卯杖は大舎人寮(おおとねり
りょう)、諸衛府から、天皇、皇后、東宮などへ献上され、梅、桃、柳等の木を五尺三寸(一・六メートル)に切り、一本ないし三本に束ねたものである。

 そして卯槌の方は、同じく正月初の卯の日、糸所(いとどころ)及び六衛府から、内裏に邪鬼払いとして奉った槌で長さ三寸(九センチ)幅一寸(三センチ)四方の直
方体に穴をあけて、五色の糸を五尺(一・五メートル)くらい垂らしたもの。円形のものもあったという。その卯槌を基にさらに発展させ飾り付けとして確立させたのが、
点初めのものである。

 宗家では、真にする木は桃の古木を用いている。元来桃の木は邪鬼を払うという神木の意味合いを持っており、その枝を錦の布で巻き、それを中心にして、日陰の蔓(ひかげのかずら・ツル性のシダ植物類)を長く重るようにしている。最近は、中々入手が困難になっているが、それこそ例年同じ所に特別にお願いして準備している。宗家では、不老長寿や平和を願う気持を込めて、特に長いものを探して用いている。その回りに水引を掛け、ヤブコウジ、ウラジロ、ユズリハ等をつけて装飾している。

 点初めは六日間の長丁場なので、だんだん乾燥して日陰の蔓が痩せてくる。そのため途中で新しいものを足している。いつの日のお客様にも喜んでいただくようにするのは、同じ事の繰り返しであっても、結構手間のかかるということである