「石畳文」

2017-2-24 UP

2月 24日(金)茶の湯と文様
「石畳文」

ご機嫌よろしゅうございます。
今日は遠州流茶道に親しまれている方にとっては
馴染み深い「石畳文」をご紹介致します。

正倉院の錦や、平安当時の宮廷で官位の制によって
定められた文様である有職織物にも「石畳文」は
見受けられ、「露文」と表現されていますが、
これは字の如く小さな文様であったようで
遠州緞子として知られる「大石畳唐花七宝文緞子」は
5センチ程の桝に四隅に星を持つ七宝文と、三種の唐花を
配しており、江戸初期日本に渡ってきた際には
大胆且つ新鮮な驚きを当時の人も抱いたことでしょう。
他にも色縞に小石畳を地模様とし、その上に宝尽しを散らした
「伊予簾椴子」。こちらは遠州公が中興名物の伊予簾茶入の
仕服に用いたことからの銘です。
また、星の文様が入った「尊氏金欄」または「白地大徳寺金欄」
とも呼ばれる「釣石畳」などがあります。

石畳文といえば京都にある桂離宮松琴亭の
一の間の床の貼付壁と襖障子が思い浮かびます。
青と白の配色による大胆な大柄石畳文様です。

江戸時代には多様な種類の石畳文様が能装束や小袖に
見られ、当時の流行が伺えます。
江戸時代の中期には京都から江戸に下った歌舞伎役者
佐野川市松が、中村座での初舞台「高野心中」に
小姓粂之助役で着用した袴の柄が石畳の文様でした。
その若衆振りが大変な人気を呼び、それ以降石畳文は
佐野川市松の名をとって市松模様と呼ばれるように
なっていったと言われています。

宿の梅

2017-2-20 UP

2月 20日(月)「宿の梅」

我が宿の梅の立ち枝や見えつらむ

思ひの他に君がきませる

ご機嫌よろしゅうございます。
今週の25日には御自影天神茶会が行われます。
菅原道真公といえば梅の花
太宰府に左遷となった道真
その道真を追いかけて梅の木が飛んで行ったという
「飛び梅伝説」。
この故事から、「道真」と「梅」という結びつきが
天神信仰の広まりと共に鎌倉中期以降に大衆に浸透します。
また「梅」は文様としても多く描かれていることは
先月にもご紹介しました。

さて、冒頭ご紹介しました梅の歌にちなんだ銘の茶入
「宿の梅」があります。
江戸時代初期、薩摩で焼かれたこの茶入は
白地の下地が褐色釉のところどころから見え隠れし
まるで梅のような景色を作っています。

後藤三左衛門所持から「後藤」ともよばれ、
遠州公が「拾遺集」の平兼盛の歌から命銘しました。

春日山

2017-2-17 UP

2月 17日 (金)茶の湯と文様
「春日山」

ご機嫌よろしゅうございます。

春日山は春日大社の背景ともなる山で
春日大社は藤原不比等が、常陸の鹿島の神である
タケミカヅチノミコトを春日大社に迎えたことにはじまり、
その際神を導いたのが白鹿であったことから、
現在でも鹿が神の使いとして大切にされています。

筑前芦屋釜で利休所持と伝わる「春日野釜」があります。
真形鬼面鐶付で、地紋に春日の神鹿が表現されています。
一面に振り向いた牝鹿、それを追うような牡鹿が
鋳だされています。
他にも「春日山釜」など「春日野」や「春日山」が
単に鹿の文様の総称にもなっており、筑前、伊勢、博多の
各釜作地に遺釜をみるといいます。

また根津美術館所蔵の「春日山蒔絵硯箱」は足利義満遺愛の品で、
ゆるやかな山に鹿、月に秋草、紅葉を配したデザインの中には
「盤(は)」「こ・と・に」「け」「連(れ)」の文字が
葦手とよばれる絵画化した文字を潜ませる手法で表され、
「古今和歌集」の壬生忠岑の歌

山里は秋こそことにわひしけれ
鹿の鳴く音に目をさましつつ

を暗示させる、文学的趣向が込められています。

お勅題「野」にちなみ、今年は特に多く取り上げられる文様
でなないでしょうか。

今月の菓子

2017-2-13 UP

無題

2月 13日(月)今月の菓子

ご機嫌よろしゅうございます。

宗家道場のお稽古では、毎週目にも鮮やかな
和菓子を愛でつつ、お客様としてのお稽古を
するのも楽しみの一つです。

今日ご紹介するお菓子は源太萬永堂製「 春の野」です。

春の訪れを迎えはじめた野辺に、小さな芽を出し始めた草木達。
その姿を繊細に表現したきんとんのお菓子です。

春の野にすみれ摘みにと来し我そ野をなつかしみ一夜寝にける
山部赤人

今年の勅題「野」にもつながり、耳で聞き、目で愛でて、
その柔らかい甘さを舌で感じる‥
五感を刺激するお菓子です。

「鶯」

2017-2-10 UP

2月 10日(金)茶の湯と文様
「鶯」

ご機嫌よろしゅうございます。
2月4日に立春を迎え、8日から七十二候の
「うぐいすなく」に入りました。

「春告鳥」とも言われる鶯の
新しい季節の到来を教えてくれる可愛いらしいさえずりです

香道具の一つに「ウグイス」と呼ばれるものがあります。
続後拾遺和歌集の中に

あかなくに折れるばかりぞ梅の花
香をたづねてぞ鶯の鳴く

という歌があります。
後水尾天皇の中宮・東福門院が、
使用済みの香包をさす竹や金属製の棒状の香串を
この歌から「ウグイス」と命名したといわれています。

画題としても盛んに取り上げられる梅に鶯の取り合わせは、「鶯宿梅」と呼ばれ、
物事の適切な組み合わせの例えにも用いられますが、
逆に正岡子規はこの組み合わせを安易に用いることを嫌い、
月並俳句として戒めるようになりました。

鶯の描かれている茶道具に仁阿弥道八の「錆絵竹鶯図茶碗」
があります。滴翠美術館の所蔵で、竹の葉と、
枝にとまる一羽の鶯が描かれた一碗です。

宗家道場の床の間拝見

2017-2-6 UP

2月

2月6日 (月) 宗家道場の床の間拝見

ご機嫌よろしゅうございます。

立春も過ぎ、冬の間張り詰めていた氷を
春の風が解かしはじめます。
宗家道場の床の間も、新しい季節を感じさせてくれます。

床 紅心宗慶宗匠筆 松竹梅絵賛 三幅対
松無古今色 竹上下有節 柳緑花紅

花 曙椿 蝋梅
花入 染付高砂

こちらの掛物はご先代がおかきになられた三幅対です。
「松に古今の色無し」「竹に上下の節有り」は対句で
松は常に青々として常住不変の一方、竹の節は差別(区別)
の存在を表します
「柳は緑、花は紅」は、自然のあらゆるものがそのままで
真実を具現している様を表しています。
三幅対は、これらの禅語の松、竹、柳の部分を絵で、
他を文字で書いています。
花入は高砂。新春にふさわしい花入です。昨年の2月の
メールマガジンで、能「高砂」と花入についてご紹介しました。
こちらもご参照ください。

「早蕨」

2017-2-3 UP

2月 3日 (金)茶の湯と文様
「早蕨」

ご機嫌よろしゅうございます。
厳しい寒さの中芽をだす早蕨は、私達に
待ち望んだ春の到来を教えてくれます。

蕨は常緑性のシダ植物で日当たりのよい
山地に生え,早春先端がこぶし状に巻いた新芽が
地下の根茎上から直立して生えてきます。
これを山菜として食用に、また根茎から蕨粉を
とり、わらび餅などにつかわれます。

先端がくるくると巻かれたその独特な形は
土器や古墳にも描かれ、万葉の頃から春を告げる
植物として歌われてきました。

茶道具の中では、
桃山時代の「黒織部蕨文茶碗」があります。
五本の蕨が上に向かうシンプルなデザインですが、
力強い芽吹きを感じさせます。
また釜の鐶付にも早蕨をモチーフとしたものが
よく見受けられます。

またその景色に蕨の姿を感じ取って「さわらび」の
銘をつけられた魚斗屋茶碗が東京国立博物館に所蔵されています。
五世宗香政峯公が源実朝の歌集である「金塊和歌集」から

さわらびのもえいづる春に成りぬれば
のべのかすみもたなびきにけり

の歌より命銘したと言われています。